随筆 煙草について・桜餅 第118号
舌と鼻は最大の記憶装置といわれる。確かにその通りだと思う。最近、どこでも分煙が進んで煙草の香りを嗅ぐ機会が減ったが、それでも待合室や喫茶店で、ふとピースの香りに接すると新入社員だった頃の上司の顔が浮かぶ。よく褒めて、よく癇癪を起す人だった。桜餅は親戚の家の居間を思い出す。子供心にあまり美味しいとは思わなかった。苦虫を嚙み潰したような医者の叔父が苦手だったせいかもしれない。今回の撮影で久しぶりに桜餅を食べてみると案外風味も良く、私の記憶装置も塗替えられたかもしれない。
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