かくれキリシタン
十数年前、天草・島原の乱の調査で天草の小さな資料館を訪ねた。80歳を越えた館長らしき老人が出て来られて丁寧に潜伏キリシタンについて遺跡や資料も交えて説明してくれた。その説明があまりにも的確で素晴らしかったのでノートをとることも忘れて聞き入ってしまったが、別れ際に私に向かって「きのうだったら四郎様に会えたのに残念でしたね」と真顔で言われた。一瞬、えっとなったが、帰りの車中で「真実と事実は違う」という言葉を思い出した。事実をいくら積み重ねても真実には到達できない。老人は<真実>を私に伝えようとしていたことを知りハンドルを握る手が汗だらけになっていた。
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