62年ペナントレース開幕
たしか小学校3年生の頃だったと思う。普段は大学の研究室にこもって深夜まで帰宅しなかった父が初めて野球場に連れていってくれた。試合は巨人が大差でリードされていて、9回にもなると客がぞろぞろ帰り始めていた。しかし、ただ一人、背番号3の選手だけが、まるで試合の状況が理解できてないような闘志で全力疾走で守備をしていた。そして、いよいよ9回の裏、彼は目が覚めるような弾丸ライナーのホームランを放った。残っていた大人の客が半泣きで立ち上がって拍手していた。「どうして彼は諦めないの」と素朴な質問をすると「彼は野球が好きなんだ」と父が答えてくれた。