茶の湯の歴史
思うに茶道とは修羅場の中でこそ輝く文化ではなかろうか。ただただ戦乱の世の巡り合わせのみで敵と味方とに別れ、明日には命を奪いあう仲になるかもしれない二人が、この一瞬だけは、静寂の空間の中、茶をもてなす側ともてなされる側になり、お互い礼節と作法をもって向き合う。ここに日本人の美学が凝縮されていると思う。茶道は時代や運命に翻弄される人間たちの精一杯の<天への抵抗>なのだ。戦国の世から泰平の江戸の世になり、緊張感を失った茶道は季節の風流を楽しむ知識人の単なる教養、たしなみ、芸事、余興に変化していったと思われる。